副鼻腔炎について
副鼻腔炎は、3か月以上にわたる症状と所見が続く慢性副鼻腔炎と、症状が1か月以内に治まる急性副鼻腔炎に分けられます。
急性副鼻腔炎
- 急性副鼻腔炎は、感冒などウイルス性の急性上気道炎に引き続き、細菌による感染を起こして発症する場合が多いとされます。このほか歯性上顎洞炎といって歯根部の炎症が由来の副鼻腔炎もあります。
- 症状としては、膿性鼻漏、鼻閉、頬部の痛み、頭痛、発熱などが出現します。
- 治療にあたっては、抗菌薬の使用や局所療法が主体となります。
黄白色の膿が鼻からのどに流れています
慢性副鼻腔炎
- 慢性副鼻腔炎は急性炎症が長引き、副鼻腔に慢性的な炎症が生じた状態です。
- 症状としては、粘性鼻漏、後鼻漏、嗅覚障害、頭重感、鼻茸による鼻づまりなどが起こります。
- 治療としては、月単位の薬物療法(代表的なものとしてマクロライド療法)で改善されなければ、手術治療などが必要になることもあります。
- なお近年、手術治療や投薬治療を行っても再発を繰り返し、喘息などの下気道疾患を伴う好酸球性副鼻腔炎というタイプの副鼻腔炎もみられます。
- 鼻茸(鼻ポリープ)
- 炎症により粘膜が盛り上がった状態で、鼻閉をきたすことがあります
- 鼻茸がある場合には副鼻腔炎を伴うことも多いです
正常鼻粘膜
慢性副鼻腔炎
副鼻腔真菌症
- 副鼻腔にアスペルギルスなどのカビが塊を作った状態で、周囲に炎症をきたします。一般的には投薬では治療奏功せず、外科的手術が必要な疾患です。真菌塊の切除、副鼻腔の病的粘膜の切除を行います。
好酸球性副鼻腔炎とデュピクセント
慢性副鼻腔炎の中には治りにくいタイプがあり(好酸球性副鼻腔炎など)、従来からある薬物治療や手術を行っても再発を繰り返したり、鼻閉や嗅覚障害といった症状の改善が見られない方がおられます。
デュピクセント(デュピルマブ)はこれまでの薬とは異なるメカニズムで働く新しい薬です。既存の治療でコントロールが悪かった方でも症状を改善し、維持する効果が期待できます。
慢性副鼻腔炎においては文字通り慢性的な炎症がありますが、免疫細胞から作られるIL-4(インターロイキン-4)、IL-13(インターロイキン-13)といったサイトカイン(細胞から分泌されるタンパクで様々な細胞応答を引き起こす生理活性物質)が深くかかわっています。デュピクセントはIL-4とIL-13を選択的に抑える完全ヒト型モノクロナール抗体で鼻副鼻腔の炎症を抑え、鼻茸を小さくする効果が期待できます。本薬剤はこれまでにも気管支喘息(2019~)やアトピー性皮膚炎(2018~)の治療にも用いられています。
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対するSINUS-52という治験データ(日本人を含む国際治験)ではデュピクセントは鼻茸を小さくし、鼻閉を改善し、嗅覚障害を改善する効果が示されました。(Bachert C et al. Lancet. 2019 ;394:1638-1650.)
また喘息の症状がある方の場合、喘息にも副鼻腔炎にも奏効することが期待できます。
デュピクセントは2週間毎(安定した場合には4週間毎も可能)に皮下に注射する薬剤です。医師の判断のもと患者さんご自身が注射を行う「自己注射」も可能です。健康保険は適応されますが、薬剤費だけで月約2万円(4週1回投与)から4万円(2週1回投与)がかかります(3割負担の方の場合)。
好酸球性副鼻腔炎の診断が得られた場合、指定難病制度による自己負担額の上限制度もあり得ます(個々の所得により上限額は異なります)。
年間を通じて医療費の支出が10万円以上の場合、医療費控除を受けることにより還付金を受け取れる場合があります(確定申告が必要です) 。