腫瘍性病変
- 腫瘍性病変の中には良性のものと悪性のものがあります。悪性のものは“がん”と呼ばれますが、上皮由来の癌(頭頸部の大部分はこちら)と軟部組織由来の肉腫に分かれます。頭頸部にできるがんは体全体のがんから見るとおおよそ5%ぐらいを占めると言われております。頸部から頭部の範囲で脳と眼を除いた領域が対象となります。頭頸部がん全体でも数はそれほど多くはありませんが、さらに部位別によって細分類されているため一つ一つの疾患の頻度はさらに低くなります。主な要因としては喫煙、飲酒、ウイルス感染などが挙げられております。それぞれ部位によって特徴があり、治療法も異なるため多くの知識、経験と技量が必要とされます。頭頸部がんのスクリーニング(検査)は当院でも行えますが、治療に関しては総合病院や大学病院などで行うべきものが多いため、適切な施設を紹介させていただくことになります。治療後の定期的な経過観察は当院でも可能です。
主な頭頸部腫瘍疾患
鼻・副鼻腔がん
- かつては鼻副鼻腔がんが耳鼻咽喉科領域のがんでは多かったといわれていますが、副鼻腔炎が治療されるようになってから減少し、近年ではそれほど多くはない疾患になっています。手術、抗がん剤、放射線を組み合わせた治療が行われます。比較的小さなものですと内視鏡下の手術も行われるようになっていますが、進行すると顔面皮膚切開で、拡大切除が必要となりかなりの侵襲を伴います。
- 出血しやすい鼻腔がん
上咽頭がん
- 上咽頭は鼻の奥に位置しますが、頭部を球体とするとそのほぼ真ん中に近いところにあたります。頭頸部がんの中ではそれほど多くはないがんです。一般的には放射線、抗がん剤を中心とした治療が行われています。顔面深部のため手術による治療が困難な場所です。
中咽頭がん
- 中咽頭がんは大部分扁平上皮癌ですが、2018年から分類が大きく変わった腫瘍です。ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の有無によって進行度の分類が異なります。手術、抗がん剤と放射線治療が主な選択枝となります。特にウイルス由来のがんですと抗がん剤と放射線を組み合わせた治療が良く効きます。比較的限局したものであれば内視鏡下の手術適応にもなりますが、進行したがんでは下顎骨を切断しての手術が必要となることもあります。
- 軟口蓋の発赤を伴う癌
- 口蓋扁桃癌
下咽頭がん
- 下咽頭がんは大部分扁平上皮癌ですが、主にアルコール、タバコによって生ずると考えられています。症状としては飲み込みにくい、のどが痛い、のどの違和感などがありますが、進行するまでほとんど症状がないこともあります。アルコール多飲が原因の場合には食道癌を合併することもしばしばみられます。そのため治療中、治療後には禁酒が必要です。手術、抗がん剤と放射線治療が主な選択枝となります。比較的限局したものであれば内視鏡下の手術適応にもなりますが、進行すると咽頭喉頭全摘、腸の移植手術など侵襲の高度な治療が必要とされます。喉頭温存を希望される場合の初期治療として化学放射線治療を行うことも多いです。咽頭のごく小さな表在性の腫瘍の場合、内視鏡で特殊光をあてることで発見しやすくなることがありますが、当院の内視鏡でも可能です。
下咽頭がん 表在癌
喉頭がん
- 喉頭がんは大部分が扁平上皮癌ですが、喫煙との関連が強いがんです。治療にあたっては禁煙が必要です。早期発見ができれば放射線治療やレーザー手術あるいは喉頭部分切除術など声を残す治療が可能です。進行癌では喉頭全摘術が必要となります。喉頭摘出をした場合でも音声再獲得は可能であり、食道発声、シャント発声などの方法があります。
- 声門癌
- 声門上癌
プロヴォックス(ボイスプロステーシス・気管食道シャント)について
喉頭がん、下咽頭がんなどの治療で喉頭摘出された後に気管孔と食道の間にシャント(交通する孔)を作り、発声機能の再獲得をすることがあります。現在主にAtos社のプロヴォックスを埋め込むことが多いですが、定期的な交換(概ね2~3カ月程度)が必要になります。手術後長期間が経ち、がんの経過観察はたまにでよいがプロヴォックスの交換が必要な方、近隣で交換だけ済ませたい方などは当院で交換を承ることも可能です。プロヴォックスの種類・サイズがわかるように現在かかっている病院からの紹介状が必要となります。また人工鼻や土台となるアドヒーシブを処方箋で発行することも可能です(ご使用中のものの型番が必要となります)。院内に常備はしておりませんので、初診の方は一度ご来院の上で交換の日程を決めさせていただきます。なお交換自体が極端に難しい方の場合は元の病院で引き続きご対応いただくことがあります。
唾液腺腫瘍(耳下腺・顎下腺良性腫瘍、耳下腺がん、顎下腺がん)
唾液を作る場所である耳下線や顎下腺から発生する腫瘍性病変です。耳下線腫瘍は耳介の下方や前方に発生し、顎下腺腫瘍は顎の下に発生します。良性の場合には腫瘤だけが症状で痛みを伴うことは基本的にはありません。悪性腫瘍の場合には痛みを伴ったり、急速な増大、顔の動きに異常が出たりすることがあります。良性腫瘍の多くを占める多型腺腫は長期間放置しておくと悪性化することがあるため、基本的には良性であっても切除が勧められます。
耳下腺腫瘍(良性)
顎下腺癌
口腔がん
口腔内(舌、口腔底、頬粘膜、硬口蓋)に発生するもので多くは扁平上皮癌です。他に小唾液腺由来の腫瘍のこともあります。硬い腫瘤、潰瘍、白色病変が見られますが、小さいものでは口内炎と間違われることもあります。喫煙や噛み癖のような機械的刺激が原因と考えられています。口腔がんは基本的には切除が優先されますが、早期であれば口腔内からの切除で済みますし、進行すると頸部からの切除や下顎骨切除と筋肉や皮膚の移植手術が必要となることがあります。このほか術後に放射線治療の追加をすることがあります。
- 舌癌 早期癌
- 歯肉癌 進行癌
甲状腺がん
- 甲状腺は頸部の下方に位置しますが、腫瘍があると首の下方の腫れとして自覚されることが多いです。このほか悪性腫瘍の場合反回神経麻痺によって声がれをきたすことによって発見されることもあります。痛みはよほど大きくならない限り伴わないことが多いです。甲状腺がんは主に5種類あり、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、悪性リンパ腫、未分化癌に分かれ、前2者の頻度が多いとされています。基本的には切除を要することが多いですが、切除ができない場合には薬剤による治療が選択肢になることがあります。
6mm程度の小さな陰影ですが、辺縁が不整。切除依頼し、甲状腺乳頭癌の診断。
- 甲状腺乳頭癌